出産を機に退職をしたけれど、もう一度仕事をしたい。社会復帰をしたい。
そう考える女性も多いでしょう。子どもが小さくて働けないうちに、「少しでも再就職に有利になれば」と、空き時間を使って資格の勉強をする方もいらっしゃると思います。
資格取得に向けた勉強は無駄にはなりませんが、その資格に対して勘違いをしてしまうと、「せっかく勉強して取得したのに…」ということになりかねません。仕事と資格の関係については、多くの誤解があります。それは、「資格よりも、経験のほうが大事なんでしょ」という簡単な話ではありません。
再就職のための資格の勉強をする前に、仕事と資格についての誤解と現実と理想を知っておきましょう。
誤解1:資格を持っていたら有利?いい会社で働ける?
「資格を持っていたら、転職に有利では」「少しでもいい会社で働けるのでは」というイメージを持っている方も多いと思います。これは当たっている部分もありますが、残念ながら誤解の部分もあります。
確かに資格があると、転職に有利なケースもあります。例えば、「経理や会計事務所の求人に対して、簿記2級や1級を持っている」というケースです。また病院や調剤薬局の事務は、その資格がないと応募できないこともあり、業務に直結する資格は転職に有利になります。
しかし、資格を取ったからといって、いい会社へ転職できるかというと、そうとも限りません。たとえば企業の9割は、「正社員の中途採用の際の離職期間の許容範囲は、2年未満」と答えています。(内閣府「平成18年度国民生活白書」 )
「いい会社」をどのように定義するかによりますが、知名度や規模の点で考えた場合、離職期間が2年以上経過すると、その離職期間のブランクは資格の取得では埋められません。どんなに難関の資格を取得したとしても、それだけで大企業や有名企業に転職するのは、ほぼ不可能でしょう。
また、パソコンスキル系の資格が「転職に有利」と言われていることもあります。しかし、これにも誤解があります。
パソコンスキルが重宝されるのは、主に事務系職種です。もちろんスキルがあるに越したことはありませんが、こうしたサポート系の職種で重要なのは、高度なパソコンスキルよりも、実は「急な仕事でも頼みやすい性格」です。面接でもそれを重視します。
さらに今は、社内システムなどでデータを管理している場合も多いため、一般的な文書や表組みや簡単な計算式ができれば、仕事ができる環境にあります。ただし、派遣社員として大手企業への派遣を希望するような場合には、プラスαの材料にはなるでしょう。
とはいえ、離職期間中に何もしていないことに比べれば、プラスになることは間違いありません。「業績の安定した中小企業」を「いい会社」と定義するのであれば、資格取得に向けて勉強した姿勢や意欲をある程度評価してもらえます。
誤解2:資格で「一生できる仕事」が手に入る?
「一生できる仕事をしたい」と、司法書士や社会保険労務士、中小企業診断士、宅地建物取引主任者など難易度の高い資格に挑戦する方もいらっしゃいます。好きな分野として勉強するのはいいのですが、「転職に有利」「仕事に困ることはないだろう」という考えで勉強するなら、再考の余地があります。
例えば、司法書士は企業の不動産の売買の際や、役員の就任など各種登記簿関連の手続きを行いますが、これらの手続きは簡易化の流れや少子化問題もあり、今後仕事量が大きく広がるマーケットではありません。加えて、行政書士や弁護士の参入が進み、競争も激化しています。
求人も極めて少ない上に、勤務司法書士の場合、月収は20万円程度と言われ、通常の事務職と大差がありません。独立開業するなら、その激戦のなかで個人の営業努力が必要です。
社会保険労務士も、「人事労務の仕事に有利」と言われていますが、人事労務の求人はそもそも少なく、そのなかで経験者と競うことになります。社会保険労務士事務所への転職には優位になりますが、こちらも求人が少なく、給与面でも普通の事務職に比べて大きくプラスになるわけではありません。
宅地建物取引主任者も、毎年20万人以上が受験する人気の資格の1つですが、この資格を活かして仕事をする不動産業界は、営業目標が厳しいのも現実です。子育てしながら、目標達成に追われる仕事ができれば問題ありませんが、それが果たしてできるでしょうか。
このように資格取得のために必要な勉強量と、その後に活かせる度合が比例するかというと、そうとも限りません。もちろん個人の努力次第ですが、難しい資格を取ったからといって、安泰なわけではありません。そのため、その分野が「好きなこと」ならいいのですが、資格に過度に期待をしてしまうと大変なことになります。
「一生できる仕事」とは、取得した資格によって決まるのではなく、「私は、これを一生の仕事にする。」と自分で決意することで決まります。資格が必要のない事務職でも、「事務職として、この会社を定年まで支えたい。」と思えば、それが一生の仕事になるのです。
現実:資格が本当に有利になるのは介護福祉医療関連
それでも資格を取得すれば、確実に就職できる資格もあります。例えば、常に求人需要が非常に高く、人手の足りない介護業界では、「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」「実務者研修(旧ホームヘルパー1級)」を勉強すれば、再就職は非常にスムーズに実現できます。
再就職後も実務経験を積めば、介護福祉士や、ケアマネージャーと国家資格を取得し、ステップアップすることも可能です。
また国際キャリア・コンサルタント認定講座も就職率100%(2014年10月現在)と、人材関連の仕事を目指す方には有効な資格になっています。
医療事務や調剤薬局事務、歯科助手などの資格も、取得すれば再就職にも有利で、通常の事務よりは時給や給料が少しいい環境で仕事ができます。ただし、これらは主婦に人気が高い資格と職種であるため、地域によっては再就職が激戦となることもあります。
理想:資格は「学ぶ意欲をアピールする材料」に使う
このように介護福祉医療関連の資格以外は、資格を取得したからといって、その資格そのものが転職に有利になることは、考えにくいのが現実です。 「資格を持っているんだから、転職も有利なはず。」「この知識を活かして再就職を。」という認識は、改めましょう。
しかし、資格取得が全く無駄になるかというと、そうではありません。資格取得の本当の効果は、離職期間中に「学ぶ努力をした」という、「意欲の実績」になることです。育児の合間に時間を作って勉強し資格を取得したことで、「成長意欲」「やる気」「再就職に対する本気度合」を、実績を持ってアピールできます。
たとえば、事務の経験しかないけれど、経理として再就職したいと考えて簿記2級を取得したとしましょう。それを「簿記の知識を活かして、経理事務をやりたいです」 とすると、「知識だけあっても…」とみなされてしまいます。
これが、「事務の経験を生かして今後は経理の仕事をしたいと思い、育児中に簿記の勉強をしました。経験はありませんが、これからも仕事をしながら、しっかり学んでいきたいです。」と、入社後に学ぶ意欲を裏付ける「意欲の実績」として資格をアピールすれば、資格は非常に生きてきます。
現職期間と違って、離職期間に取得した資格でアピールできるのは、「学ぶ意欲」です。「専門分野の知識を身につけた」という知識の実績ではなく、「謙虚に学ぶ姿勢がある」という「学ぶ意欲の実績」として資格を活用していきましょう。