妊娠・出産を機に、退職。

育児休暇を取得して、ワーキングマザーとして仕事を続けながら子どもを育てる女性は増えてきました。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によると、育児休暇を取得する割合は1985~1989年の5.1%から2005~2009年は17.1%と約3倍になっています。

一方で、出産を機に退職する人の割合も、20年前の1985~1989年の37.4%から、2005~2009年は43.9%と、こちらも増加(2010年6月)。ワーキングマザーが増える一方で、出産を機に退職する人も増えているのです。

「出産して仕事を続けるのは、大変そう。」

「子育てに専念したい。」

出産を機に退職を選ぶのは、様々な理由があると思います。しかし、出産を機に一度正社員の仕事を離れてしまうと、再び正社員に戻るのは実は難しくなります。ましてある程度の規模の会社に勤めていた場合、同規模・同条件の会社に再就職するのは極めて難しいと言えます。

出産して退職して後悔をしないように、決断をする前に再就職の現状を知っておきましょう。

女性の再就職の多くはパート・アルバイトの現実

女性の労働力率

(出典:内閣府「平成18年度国民生活白書」 http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/ ※データは総務省「就業構造基本調査」2002)

女性の労働力率(15歳以上の人口に占める就業者と完全失業者(ハローワークで求職している者)を合わせた労働力人口)は、結婚や出産を機に退職し、育児が一段落したら再就職するM字カーブを描くといわれています。

しかし、「育児が一段落したら再就職をする」といっても、その多くはパート・アルバイトです。労働力率が再び最も高くなる45~49歳を見ると、正社員の割合は27.0%。M字の谷の25.9%からわずかしか上昇していません。一方、パート・アルバイトは40~44歳に続き、全年代で2番目に多い34.5%となっています。

40代の女性で最も多い雇用形態は、パート・アルバイトです。「再就職」といえど、出産前と同じように正社員として働いているわけではないことが明らかになっています。

離職期間が長くなると、正社員として復帰するのは難しくなる

正社員が難しい

(出典:中小企業庁 「中小企業白書」2012年版http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

多くの女性がパート・アルバイトとして再就職するのは、家事とのバランスを考えて本人が希望している場合もあります。しかし、「正社員として再就職したくてもできない」理由もあります。それを引き起こしているのが、「出産・育児を経験すると離職期間が長くなってしまう」という事実です。

それを示したデータが、同じく内閣府の平成18年度国民生活白書にあります。出産・育児のために離職して1年未満に再就職した場合、正社員の割合は19.5%ですが、離職期間が1年以上となると、8.8%と一気に半分以下に減少しています。

これには、企業側と個人側それぞれに事情があります。同じく内閣府の調査によると、企業の9割が「正社員の中途採用の際の離職期間の許容範囲は2年未満」としています。離職期間が長いと、専門知識やスキルなどが低下するとみなされ、再就職が難しくなってしまうのです。

また、「子どもを預けられる場所がない」という個人側の事情もあります。主に都市部では、保育施設は「育児休暇中の正社員」が優先です。待機児童が多い地域では、「就職活動をしたいから」では子どもをなかなか預けられません。女性の労働力率を表すM字カーブも、東京など都市部のほうが「山」と「谷」の差が大きく、出産・育児中に仕事ができない女性が多いことを示しています。

そして、子どもの預け先が確保できていなければ、企業も採用してくれません。こうして正社員としての再就職を、諦めざるを得なくなってしまうのです。

女性起業・サロネーゼの7割はパートよりも収入が少ない!?

個人所得(出典:中小企業庁 「中小企業白書」2012年版http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

正社員やパート以外の働き方ではどうなのか。それも見ておきましょう。

自分の得意分野や興味のあることで起業する女性起業家や、自宅で自分の趣味の教室を開催するサロネーゼ、特技を活かしてフリーランスで仕事をする女性などもメディアで紹介されるようになりました。このように「個人事業主、自営業としてそれを営んでいる場合」の収入のデータが、この中小企業白書になります(株式会社として法人化している場合を除きます)。

これをみると、女性の自営業主の約7割が年収100万円以下で、平均年収は93.1万円です。

自分の趣味や特技を活かした仕事をするのは、女性の憧れの1つでもあります。そのやりがいは、収入には変えられないものがありますが、収入面だけを考えると、パートで働いたほうが稼げるのも現実と言えそうです。

収入・やりがい・待遇・ワークライフバランス…総合的に長期的視野で判断を

育児休暇などを利用しながら、定年まで正社員として仕事を続けた場合と、出産を機に退職し、その後パートや派遣などの非正規社員として仕事を続けた場合では、年金・退職金なども含めて1億円以上の差があると言われています。

もちろん収入だけが大切ではありません。家計を支えてくれる夫の収入もあり、家庭を優先させるのも素敵な生き方です。実際に、30代以降でパート・アルバイトに就く人の30~40%の人が自ら希望してその雇用形態を選んでいます(内閣府「平成18年度国民生活白書」) 。

ただ繰り返しますが、一度離れてしまったら簡単には戻れないのが「正社員」への道です。収入の問題だけでなく、正社員でなければ味わえない、仕事のやりがいや責任もあります。

出産や育児が大変そうだからと、簡単に「出産で退職」という選択肢を選ぶと、子どもが大きくなって手が離れた時に、後悔する日がくるかもしれません。しかし、きちんと考えてだした結論であれば、独身時代とは異なるワークスタイルでも、前向きに受け入れて楽しむことができます。

迷った時には、目先の大変さから逃れるためでなく、「家事・育児と仕事の自分の理想のバランスはどんな状態か。人生を通じて、どのような働き方をしていきたいのか」という長期的な視点で、判断するようにしましょう。