結婚後の働き方については、人それぞれ希望があるでしょう。ライフイベントで働き方が変わらない男性とは異なり、女性は結婚や出産で働き方を見直すタイミングがやってきます。そして、時には希望しないけど仕方なく…というキャリアプランを変更せざるを得ないのが現状です。
以前から日本では、女性の労働力は結婚や出産によって退職し、育児が一段落ついた後に再び働くのが一般的でした。そのため女性の労働力人口を示すグラフは、20代と40代後半から50代でピークを迎える「M字カーブ」を描いています。
【女性の年齢階級別労働力率の推移】
(出典:内閣府男女共同参画局 「男女共同参画白書 平成25年版 第2節 女性の労働力率の形状の背景」より
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html)
この「M字カーブ」は結婚や出産などのライフイベントを迎えながら、女性が仕事を続けることの難しさの現状を表した日本独特のものであり、実は他の先進国にはほとんどみられません。
それでも平成24年の調査では、M字カーブの「谷」でもある30~34歳の労働力率が平成7年の53.7%から68.6%と大きく上昇し、M字カーブが解消されつつあると報じられました。
しかし、実際はどうなのでしょうか。
「結婚後も仕事を続けたい」という方にも、「結婚後は家庭に入りたい」という方にも知っておいていただきたい、女性の結婚後の働き方の実態をいくつかのデータとともに紹介します。
30~34歳で働く女性が増えた本当の理由は晩婚化と晩産化
M字カーブが改善した理由は、晩婚化、晩産化、独身の増加と考えられています。
厚生労働省の調査では、女性の平均初婚年齢は29.0歳と18年前に比べて3歳上昇しています。晩婚化に伴い、「初産年齢」も上がり平均で30.1歳と調査以来、初めて30歳を超えました(「人口動態統計月報年計」2011)。
さらに、独身女性も増えています。「結婚していない友達も多い」なんて体感値もあるかもしれませんが、実際に総務省の調査では、2002年の25~29歳女性の独身者の割合は58.4%と、25年前の37.6%から大きく上昇しています(「就業構造基本調査」2002)。
1年間に結婚がどれだけ発生しているかを示す、「婚姻率」も過去最低の5.2%となり、そもそも結婚をしない男女が増えているのは統計上も明らかです。
M字カーブの数値の改善は、結婚したり子どもを生んだりした女性の社会環境、雇用環境が改善したわけではなく、そもそも「結婚しない」「結婚しても子どもを生まない」女性が増えただけなのです。
では実際に結婚をした場合に、その後のライフイベントは女性の働き方にどのような影響を与えるのか、他のデータを見ていきましょう。
結婚して仕事を続ける?やめる?
自分だけでは決められない現実
「結婚しても仕事を続けたい」「結婚したら専業主婦になりたい」等、それぞれ思いがありますが、それは自分の意志だけではどうにもならないのも現状です。
たとえば、「結婚しても仕事を続けたい」派に見ていただきたいのがこちらのデータです。
内閣府発表の「平成18年版国民生活白書」では、結婚退職の主な理由で圧倒的な割合を占めるのが「結婚に伴う転居」で41.3%。次いで、「寿退社しなければならない・・・」といった「勤め先の雰囲気」で16.3%。さらに「結婚したら家庭に入ってほしい」など、「夫の反対」も9.9%あるのも見逃せません。
つまり専業主婦を希望して自ら辞めたわけではなく、「仕事を続けたい」と思っていたとしても、周囲の事情によってやむを得ず辞めなければならないケースが多いのです。
【結婚退職の主な理由】
(出典:内閣府平成18年版国民生活白書第2節女性の継続就労を妨げる壁http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h18/01_honpen/html/06sh020201.html)
一方、専業主婦を希望する方に見ていただきたいのがこちらのデータです。ある民間企業の調査では20代で専業主婦を希望する世代は約6割(58.5%)となり、専業主婦を希望する女性が増えてきていることが明らかになりました。
しかし、男性の平均年収は2013年で511万と、2006年のリーマンショック以降激減し、今年になってようやくわずかに回復したものの、停滞傾向は続いています(国税庁「民間給与実態統計調査 平成25年分」)。
「500万もあればいいじゃない?」と思う方もいらっしゃるでしょうが、これは高収入の男性も合わせた全体の平均値。実際には、年収400万円以下の男性の割合が42.8%と半数近いのです。こうした状況から、現実的には共働きとなる世帯も多く、共働き世帯数は年々上昇しています。
【共働き世帯と片働き世帯の推移】
出典:総務省「労働力調査特別調査」「労働力調査」より国土交通省作成
(http://www.mlit.go.jp/)
夫の収入だけで生活していける世帯は全体の1割程度とも言われています。結婚したら家庭に入りたいと思っていても、夫の収入だけでは厳しく、働く必要があることも視野にいれておくべきでしょう。
出産を機に離職する女性は圧倒的に多い
結婚後にやってくるライフイベントが出産です。結婚して仕事を続けていた女性も、出産を機に離職するケースは非常に多くなっています。
子どもを生むまでは「ずっと仕事を続けたい」と思っていても、育児と仕事の両立が不安になった、小さいうちは我が子の側にいたくなったと考えが変わることもあるでしょう。
国立社会保障・人口問題研究所が95年から99年の間に結婚した女性の結婚前後の就業状況も調べたところ、結婚前には88.5%だった就業率が出産後には23.1%にまで低下し、多くの女性が出産を機に離職していることがわかりました(出生動向基本調査2002)。
【女性の就業形態の推移】
(出典:内閣府平成18年版国民生活白書第2節女性の継続就労を妨げる壁
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h18/01_honpen/html/06sh020201.html)
育児支援制度を充実させる企業や出産しても働き続ける女性は、確かに増えてきています。働くママがフォーカスされ、育児と仕事を両立させて活躍する女性が雑誌で紹介されることも以前に比べて多くなりました。
しかし総務省の調査では、3歳児未満の乳幼児を抱える女性の労働力率は2002年で38.7%と1987年の36.7%からほぼ横ばいで変わっていないのです(「就業構造基本調査」2002)。
子育て一段落後の再就職は非正規雇用が一般的
保育園の入園や小学校や中学校の入学など、ある程度子育てが一段落する40代には多くの女性が再就職をします。しかし結婚や出産で離職した場合は、正社員として再就職することはほとんどありません。
これは、一度正社員の職を離れ、育児に専念して勤めていない期間が長くなってしまうとなかなか採用されにくいという転職市場の問題と、「家庭を優先した時間の使い方をしたい」という個人の希望の問題と両方の理由が考えられます。
総務省の調査では、女性の35歳以上の非正規雇用者数の割合は年々上昇しています。M字カーブ解消の傾向は非正規雇用の数が増加しているのも一因なのです(「就業構造基本調査」2002)。
【年齢階級別非正規雇用者の割合の推移】
結婚後の働き方は地域や保育環境、社会や夫の意識でも変わる
結婚や出産後に仕事を続けるかどうか。それは夫の意向や収入状況、育児を支える企業や地域の環境、周囲の人の意識など、女性だけの意識や希望だけでなく様々な要素で決まります。
たとえば、「女性が子どもを育てながら働くことに賛成」としつつも、「妻には家にいてほしい」と思う男性が増えているのも事実です。
内閣府が平成24年に行った調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方に「賛成」と答えた人の割合が過半数を超え、51.6%になりました。平成4年の調査から20年間減り続けたポイントが急に昨年よりも10%増え、特に20代では50%がその考えに賛同しています。
これは他の世代に比べても高く、70代以上、60代に次いで、これから結婚を迎える多くの男性が「妻には家庭を守ってほしい」と思っているのです。
また、女性の育児を支える雇用環境、地域のサポート、保育環境は地域によっても異なります。
M字カーブを都道府県別に分析すると、地方のほうが結婚・出産で仕事を辞めない人が多く、神奈川や東京など都市部のほうが結婚・出産で辞める人が多いという現状があります。都市部の平均年収が高く、夫の収入だけでも生活できるという経済的理由もありますが、仕事中に子どもを見てくれる親世代と離れて暮らしていることや、待機児童問題などの保育環境も影響しているでしょう。
このように女性は、結婚・出産というライフイベントで働き方を見直す必要が必ず出てきます。
価値観や考え方も、状況に応じて変わっていきます。正社員で働き続けることだけが全てでもありません。女性が直面している一般的な現状を柔軟に受け止めながら、自分らしい働き方を探していきましょう。