大卒新卒就職者の入社後3年以内の離職率は、およそ3割と言われています。

「ゆとり世代だから…」とか「最近の若者は・・・」と言われることもありますが、バブル経済が崩壊し求人倍率が急激に落ち込んで転職を控えた時期の平成3~4年を除けば、ここ30年くらいその傾向は変わっていません。

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(出典:厚生労働省・新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況 http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/24.html )

3人に1人が新卒入社後3年以内に転職するのが当たり前になって久しいなか、「年収がアップした」「やりたいことができるようになった」という話を聞くと、転職のメリットは多いように感じるでしょう。でも、「転職しないメリット」も、もちろんあります。

20代はこれからの社会人人生の土台となる重要な時期。会社を辞めてしまってから後悔しても遅いからこそ、「転職しないメリット」を3つ紹介しましょう。

職場での「信頼残高」は目に見えない財産
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1つめの転職しないメリットは、その会社で人間関係を構築し、「信頼残高」を増やしていくことができることです。

「信頼残高」とは人間関係における信頼の度合をさします。大きな業績を上げていなくても、きちんと挨拶をする、約束を守るなど真面目に働いてさえいれば、職場で「信頼残高」は積み重なっています。

そして信頼残高があればあるほど、意見や提案を聞いてもらえたり、希望を聞いてもらいやすくなったり、融通をきかせてもらったり、ミスをカバーしてもらえたり、あるいは重要な仕事を任せてもらったり、異動を聞き入れてもらえたり等、仕事がやりやすく、より働きやすくなるのです。

自分自身は何も感じなくても、きちんと積み重なっているのがこの「信頼残高」。転職して職場が変わってしまったら、また次の職場で1から積み重ねなければなりません。

例えば未経験の仕事にチャレンジしたい場合でも、社内でその担当部署があるなら、転職するよりも信頼残高のある社内で異動を希望するほうが、実現可能性が高く仕事もやりやすい場合があるのです。
今の会社の経営資源があってこそ、できる仕事や業績もある
003もしかしたら、「実績も上げて実力もついたし、転職してどこでもやっていける」と思うこともあるかもしれません。でもあなたの仕事や業績の中には、今の会社の経営資源があるからこそ、できるものもあります。

今の実績は、会社のブランド力や知名度、会社としての信用力、商品力やサービス力、ネットワーク力、開発力など、今の会社の経営資源があるからこそのものです。

例えば、こんなケースがありました。以前、信託銀行に勤めていて、環境産業分野のアナリストだったAさんは、「地球の環境を守りたい」という高い志から産業廃棄物を扱う環境産業へと転職しました。

今まで銀行員として、どんな会社にもアポイントが取れ、丁重に対応してもらうことに慣れていたAさんは、転職して初めて顧客に会ってもらえない、話を聞いてもらえないということを経験しました。

「話している内容も、僕自身も全く変わっていないのに」と、今までの仕事は会社の経営資源があってこそできていたことを、彼は痛感したそうです。

あなた自身の実力があってこそ、会社の経営資源を活かして業績を上げているのは間違いありません。しかし転職すれば、その経営資源はガラリと違うものになります。今までできなかったことが、できるようになる可能性もありますが、今までできたことができなくなる可能性もあることを忘れないようにしましょう。

福利厚生制度や立地条件、
給与など転職で条件が悪くなることもある

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3つめは、今の会社の福利厚生制度、給与、立地などは今の会社ならではのものであり、転職してそれが今よりも良くなる補償はどこにもないということです。

仕事内容や人間関係は重要ですが、ぜひ仕事以外の環境にも目を向けてみてください。

給与が多少低くても休みが取りやすい、残業が少ない、駅から近くて通勤に便利、周りにお店が多くランチに困らない、社員食堂がおいしい、育児休暇が充実しているなども、今の会社ならではの「良さ」である可能性は大いにあります。

もしも、こうしたメリットを今の会社で感じているなら、それを本当に手放してもいいのか転職する前に一度考えてみましょう。

転職しないメリットもリスクもある。迷ったらプロに相談を

1つの会社の在籍期間が短く、転職を繰り返すことは社会人としてマイナスです。1度、短い在籍期間で転職してしまうと、「嫌になったら転職すればいい」と転職への抵抗感がなくなり、転職を繰り返すことになってしまいます。

転職情報サイト「リクナビNext」が企業人事とキャリアアドバイザーに行った調査では、36%が「転職歴3回から気になる」としています。同アンケートでは、転職歴1回でも「気になる」という回答も8%あり、「3回目までの転職を気にする割合」は54%と半数以上になります。

企業人事が気にしているのは、転職を繰り返す人の資質です。1つの会社の在職期間が短いと、飽きっぽい、責任感がない、コミュニケーションに問題がある、きちんと考えずに会社を選んでいる等、「社会人として何か問題があるのでは?」と思わざるを得ないからです。

さらに転職を繰り返すことで、どんどん条件の悪い会社になってしまう(転職歴の多さから市場評価が下がり、採用してくれる会社がなくなる)という悪循環に陥ってしまう方も、実は少なくありません。

とはいえ、物事には全て良い面と悪い面があるように、転職をしないことにも「転職しないリスク」があります。例えば自分のやりたいことが明確なのに、それが今の会社ではどうしても実現できないようなケースは、今の会社の在籍期間が長くなればなるほど機会を逃していることになります。

「今の状況を変えたい」と転職しても、転職で全てが叶うとは限りません。だからこそ、転職しない今の会社ならではのメリットも考えた上で、自分は本当に転職したいのか、その必要があるのかを考えてみてください。