「この会社でぜひ働きたい」と新たな仕事への意欲を熱く語って転職したはずなのに、いざ入社してみたら、イメージや期待と大きく違う…。
仕事や職場になかなか慣れず、転職したけど辛くてたまらない。
転職後、そんな現実に直面してしまう人も少なくありません。辛いのも大変なのも当然。今は4つの大きな変化が同時に起きています。この変化をきちんと知れば、今を乗り切るヒントが見えてきますよ。
人生で重大な「4つの変化」が同時に起こるのが転職
転職は、人生に起こる大きな「転機」(就職、転職、結婚や離婚、子どもの誕生や死別など)の1つです。この転機にどう対応したらよいか。それを理論にしたのが、全米キャリア開発協会の会長を務めたナンシー・K・シュロスバーグ氏の「シュロスバーグ理論」です。
このシュロスバーグ理論では、人生の転機には4つの変化(役割の変化、人間関係の変化、日常生活の変化、考え方の変化)のうちの1つ、または複数が訪れ、その変化を理解し、今までの経験や周囲のリソースを使って変化を受け止め対応することで、人生のキャリアが形成されるとしています。
では転職によって、起きる変化は何かを考えてみましょう。
転職では、職場や仕事が変わったことによる「役割の変化」があります。さらに、これまで職場で築いてきた人間関係や信頼関係がリセットされる「人間関係の変化」、働く場所・働く時間や通勤時間が変わる「日常生活の変化」、そして社風の違いという周囲の価値観や「考え方の変化」。まさに4つの変化が同時に起きるのが転職なのです。
4つの変化が同時に起きているのですから、大変なのは当たり前。変化から逃げても問題は解決しないため、うまく受け入れ、対応していくしかありません。
これは、転職したすべての人が多かれ少なかれ感じるもので、自分だけが特別に辛いわけではありません。「誰もが通る道」と現状を受け止めたら、次の視点から今の環境を見つめ直してみましょう。
前職とは違う「役割の変化」を受け入れよう
転職では、キャリアアップして管理職になったり、立場が変わったりと、職場や仕事での「役割」が変化します。転職で変わる「役割」は、初めての経験であることも多いでしょう。
その結果、仕事内容や職場の雰囲気、上司との人間関係など、「入社前に聞いていたのと違う。」「イメージしていたのと違う。」ことが転職ではよくあります。なぜなら、仕事内容や求められる役割、職場の雰囲気を数回の面接の間に正しく伝えるのは極めて難しく、入社前に得られる情報はどうしても限りがあるからです。
また、物事を受け止め解釈する感覚は、人によっても異なります。「こんなに大変だとは思わなかった。」も、「こんなに自分に向いていないとは思わなかった。」も、よくある話です。
ここで「イメージと違う。」「聞いていた話と違う。」を理由に退職しても、次の職場がイメージ通りの保障はありません。感情的に「こんなはずじゃなかった!」とすぐに判断してしまう前に、現状で許容できることを見つけてみましょう。
「人間関係の変化」があるから思い通りにいかなくて当然
即戦力が期待される中途採用ゆえに、最初から成果を出そうと思ってしまう方も少なくありません。特に、前職で優秀な業績だった場合や、高い評価を受けていた場合は、「ここでも成果を上げて、早く認めてもらおう。」と意気込んでしまいがちです。
しかし転職によって、周囲の人間関係が今までとは異なっています。前職で積み重ねた信用や評価、人間関係は新しい職場にはありません。仕事は一人でするものではないので、転職で「人間関係の変化」が起きている以上、前職と同じパフォーマンスをすぐに上げられないのは当たり前です。入社してすぐに結果を出せなくても、焦る必要はありません。
さらに今は、「人間関係の変化」に加えて、前述の「役割の変化」や、仕事に対する「考え方の変化」も起きています。これだけの変化が起きていますから、焦りは禁物です。仕事の成果を上げられるのは、この変化に対応し、新たな職場で人間関係を築いた後のこと。個人差はありますが、変化を受け入れ対応するための時間がかかっていいのです。
中には転職してすぐに成果が出せる人もいますが、それは変化対応力が非常に優れている、ごく一部の人に限ります。周囲は中途入社者がすぐに成果を上げることを期待しているわけではありません。周囲が期待しているのは、早く仕事を覚えて、職場に馴染んでくれることです。
仕事の成果を急ぐのではなく、今起きている変化を受け止め、仕事と職場に慣れることを優先しましょう。
「日常生活の変化」と「考え方の変化」は時間が解決する
転職では通勤時間や通勤経路、勤務時間など、日常生活の時間割も大きく変化します。また、たとえ同業界であっても企業によって仕事に対する考え方は異なるため、周囲の考え方も変化します。
1日のタイムスケジュールが変わったことによるストレスや、今までとの考え方の違いにギャップにストレスを感じることもあるでしょう。
しかしこの2つの変化は、「前とは違うのだ」と変わった事実をありのままに受け入れていくのが一番の解決法です。すぐには難しいかもしれませんが、時間が解決してくれるのを焦らずに待ちましょう。
日常生活や周囲の考え方・価値観など環境が変わった今は、「自分の考え方」を見直す時でもあります。新たな周囲の価値観や考え方を上手に取り入れて、自分を成長させるチャンスと捉えましょう。
変化の前後を比べずに「今」を受け入れる覚悟を
このように、転職すると「役割の変化」「人間関係の変化」「日常生活の変化」「考え方の変化」と4つの変化があります。変化の度合いが大きいと、変化の前後を比べ、前の職場がよかったように思い、転職に後悔してしまう人もいます。
規模や待遇、職場の雰囲気、仕事内容や仕事の進め方など、新しい職場で働いて初めて、かつての職場がいかに恵まれて働きやすかったか知る…というケースです。
現職と前職を比べて、「転職しなければよかった。」と後悔してしまうのは、転職後に辛いと思う感情のなかでも最も厄介なものです。前職への未練や転職への後悔がある間は、今の会社のいいところにも気づけず、職場にも慣れず、仕事の成果も上がらず、どんどん苦しい状況に自分を追い込んでしまいます。
どれだけ後悔しても、前職には戻れません。今の職場に我慢しきれず退職しても、次の転職でさらに条件が悪くなってしまう可能性もあります。その事実とリスクを認識し、自分で自分を苦しい状況に追い込まないためにも、今の職場に向き合う覚悟を決めましょう。
転職への後悔ではなく、目の前のできることに集中していれば、「転職後の辛い時期」がいつの間にか終わっているかもしれません。